今回は第5回日本国際観光映像祭において滋賀部門で最優秀賞、プロジェクト部門で優秀賞を獲得した「Timeless Journey in Otsu」の制作秘話についてお話したいと思います。
自治体や観光協会等のご担当者さま必見の内容となっております(笑)。まず、同映画祭において国際部門のグランプリ作品がこちらとなります。
第5回日本国際観光映像祭 国際部門 グランプリ
Wonderful Indonesia 2022 “Jiwa Jagad Jawi”
国際部門のグランプリに相応しく、動画の内容、メッセージ性、ドキュメンタリー性や映像技術は本当に素晴らしい作品です。
しかしながら、地方自治体の限られた予算でここまでの動画を作成するのは困難を極めるのではないでしょうか。まず、ご予算に応じた観光PR動画作成においてポイントとなる点についてご紹介させて頂きます。
- ターゲットの設定について
- コンセプトの設定について
- 魅せたいコンテンツの選定について
- クリエーターさん達とのコミュニケーションについて
- 編集作業での担当者の役割について
本動画はインバウンド向け旅行商品造成事業の一環として令和3年度に作成されたもので、動画作成に該当する費用は受託先での調整があったと思いますが、おそらく150万円強であったと想定されます。撮影は12月中旬の4日間で実施されました。受託先は株式会社wondertrunk&coさまです。
①ターゲットの設定について
基本的なことになりますが、作成する動画を誰に見てもらいたいのかを明確にすることは非常に重要です。なぜなら、観光PR動画の最終目的は誘客に繋げて経済波及効果を享受することにあります。観光PR動画を通して地域の魅力発信や認知度向上という効果も期待できますが、実際に現地に来て頂いた上でお金を落としてもらって初めて経済波及効果が生まれます。
「観光PR動画→誘客促進→経済波及効果の享受」を常に意識して観光PR動画の作成をご検討頂ければ幸いです。
ターゲットの設定については国外(海外)であれば、エリアや市場、使用言語、性別、年齢層、収入等はもちろんのこと、嗜好やニーズ、リピート率、平均滞在時間などより詳細にペルソナ分析を行った上でターゲットの設定を行いましょう。
また、ターゲットの設定については組織の方針はもちろんですが、地域の魅力を最大限に活かせるか、そのターゲットに対する受入環境整備は十分か、これまでの訪問者数や滞在期間等の実績を考慮して十分な効果が見込まれるか、などのEBPM(Evidence Based Policy Making)を心がけましょう。
②コンセプトの設定について
観光PR動画を誰に魅せたいのかというターゲットが決まれば、次はコンセプトの設定です。この段階で作成する動画の方向性が決まります。コンセプトの設定について有用な手法がSWOT分析です。撮影を行う地域の強み、弱み、機会及び脅威をしっかりと分析しましょう。地域で観光基本計画等を策定していれば参考になりますし、観光協会さまや地域の関連事業者さまにヒアリングを行うことも有用です。
参考までに私が自分なりに実施してみた滋賀県大津市のSWOT分析は以下の通りとなります。
S:京都に近い(アクセスが良い)、自然が多い、社寺仏閣が多い、びわ湖
W:京都に近い(認知度が低い)、2次交通が弱い、ナイトコンテンツが弱い
O:京都がオーバーツーリズム状態、アウトドアコンテンツに注目
T:コロナ禍における訪日外国人旅行者の心情の変化、経済情勢の不安定
強みの部分を存分に押し出してコンセプトを設定するのも一つですが、この方法では新しい発想は生まれません。むしろ弱みや脅威の中にこそ活路を見出すヒントが隠されていることがあります。
大津市のSWOT分析の結果を検証すると、「京都」というワードがたくさん出てきます。世界的に有名な観光都市である「京都」に近いことが強みであり、弱みでもあることが伺えます。さらに、コロナ前は京都ではオーバーツーリズムが大きな課題となっており、広域周遊を推し進めてきました。
また、コロナ禍を経て訪日外国人旅行者の心情が大きく変化しました。ここで誕生したコンセプトが「京都からの誘客」です。一部の方からは、「開き直り」や「コバンザメ商法」というようなお声もありましたが、そもそも訪日外国人旅行者にとって行政領域は大きな問題とはなりません。そこで、
「大津を京都の一部として位置づけ(同質化)、その上で差別化を図る(対比化)」がこのPR動画を作成するコンセプトになりました。
一つの自治体の観光PR動画に他の自治体の名称がキーワードとして出てくることは少し珍しいかもしれませんね。
③魅せたいコンテンツの選定について
ターゲットとコンセプトが設定できれば、次はいよいよコンテンツの選定になります。動画にはもちろん尺があるので、組み込めるコンテンツには限りがあります。これから作成しようとする動画の内容に合わせて最適なコンテンツ選定を行いましょう。
- ターゲットに合ったコンテンツの選定
- コンセプトに合ったコンテンツの選定
- 作成する動画のスタイルに合ったコンテンツの選定
当然ですが、設定するターゲットやコンセプトに合ったコンテンツの選定が重要です。コンテンツの種類については、後述する「作成する動画のスタイル」にもよりますが、最初の段階では多めに選定しておき、後で削る方が容易であると思います。
「契約期間について」
行政の予算年度は基本的に単年度であるため、通常は議会の承認を得て4月1日から予算執行が可能になります(債務負担行為や長期継続契約等を除く)。ここから入札等の手続きを踏んでいくと、契約が早くても5月以降になります。ただでさえ人事異動でバタバタする4月なので、下手をすると契約日がさらに後ろ倒しになることもあります。
そうすると、皆さまもお察しのとおり桜の季節が終わってしまうという問題が生じます。桜というコンテンツはインバウンド向けには是非採用したいですね。
私が動画撮影を担当した際は、「4月1日付契約」という方法を採用しました。2月議会の開会に合わせて入札等の必要準備を始め、採決後に契約相手候補方を決定するという流れになります。こうすることで、最短で4月1日に契約行為が行えます。契約行為が諸事情で遅れたとしても、候補相手が決定しているので素材集め等は先行してお願いすることは可能かと思われます。
自然由来の観光コンテンツは時期や場所等が限定されることがありますので、そのチャンスを逃さないようにしましよう。
作成する動画のスタイルにあったコンテンツの選定ですが、例えば「旅ムービー」ですと、季節が大きくまたがるようなコンテンツは内容によっては避けたほうが良いかもしれません。「ドキュメンタリー」ですと、そのシナリオにあったコンテンツ選定が重要となります。「シティープロモーション」となると出来るだけ多くのコンテンツを網羅できると良いかと思います。
「Timeless Journey in Otsu」ではコンテンツ選定において、以下の3つを意識しました。
- 京都から大津への旅ムービー
- 歩いて巡る大津の魅力
- コロナで失った人との関わりや繋がり
動画全体としては、京都を出発し、歴史深い古道を超えてびわ湖に出会う、大津への入口は天台寺門宗総本山の園城寺(三井寺)となります。市内では地元ガイドと東海道の宿場町として趣を残す大津百町を巡り、里山や山の辺で地元の食を堪能し、世界遺産である比叡山延暦寺を始めとする社寺仏閣を自らの足で体験し、最後に古代湖びわ湖にたどりつくというストーリーとなっております。そして、随所で地元の方々との関わりや繋がりを感じることが特徴となっております。
④クリエーターさん達とのコミュニケーションについて
動画作成においては、プロデューサー、撮影者、編集者、楽曲提供者、モデル等、様々な方々と一緒に作り上げていくことに面白みがあります。発注担当者も作成を丸投げするのではなく積極的に関わっていきましょう。
また、クリエーターさん達のお声はしっかりと聞いて頂ければと思います。もちろん、無理なことに対応する必要はありませんがより良い動画を作成したいという熱い思いを持ってプロジェクトに参加頂いているのでコミニュケーションを図ることは重要です。
本動画においても、クリエーターさんからイラストレーターでもあるモデルの良さをもっと魅せたいという相談を頂きました。私も撮影に同行し、モデルの彼とお話させて頂いた上でこの提案を採用させて頂きました。
本業がイラストレーターなので、イラストを描いている時に良い顔を魅せてくれました。また、ドローンや360°カメラなど最新の機材が活用される中、敢えてイラストというアナログ的な部分を取り入れたことは非常に良いアクセントになったと思います。
楽曲についても、クリエーターさんの繋がりから地元の音楽関係者をご紹介頂き、担当者、撮影者及び楽曲提供者が全員市内在住というオールスターのような人材が揃いました。
⑤編集作業での担当者としての役割について
作成した動画が納品されるまでにクライアントチェックが入ります。この段階が成果物を決定する最後の調整の場となるので気合を入れて取り組みましょう。テロップの誤字脱字の確認はもちろんですが全体構成にも気を配りましょう。
内容を確認する際も様々な角度から実施することをお勧めします。
- 全体を通して確認する
- 半分ずつ確認する
- 30秒〜1分程度に細切れにして確認する
- 音源無しで確認する
- 逆再生して確認する
- 逆立ちをしながら確認する
逆立ちは冗談ですが、概ねこの様な方法を複数人で実施できれば良いと思います。私の場合、昔ストリートダンスをやっており動画作成の経験もあったため、音源のサビ(一番盛り上がる部分)と映像の内容や転換のタイミングが合うように拘りました。剣道の試合で、有効打と気合が一致していないと判定がとられないのと同じで、動画において映像と音楽のハーモニーはベストなタイミングや流れでこそ最大の効力を発揮します。
また、クライアントチェックにおいては内容の追加・修正はもちろんですが、敢えて削るということも同じくらいに重要です。
大津市の最大の観光コンテンツである「びわ湖」ですが、初期段階では随所に盛り込んで頂いておりました。今回は発想を転換し、強いコンテンツを敢えて削るという方法を取りました。露出を少なくすることで希少性が増し、魅せたいコンテンツがより一層浮き立つ効果を出しています。限られた時間の中で全てのコンテンツを網羅することは難しいので時には大胆な選択を決断することも重要です。
また、私は元々写真撮影や動画撮影が好きだったので、撮影随行中も余裕があればどんどん撮影して、良いものはクリエーターさんに共有していました。撮影を行っていた時期は200g未満のドローン規制が緩かったので、通勤時間帯を利用してびわ湖の空撮も行っておりました。クリエーターさんの目にかなって一部でも採用頂ければ本当に良い思い出になります。観光PR動画作成の担当になる機会がありましたら、是非ご自身でも可能な範囲で撮影を楽しんでみてください。
観光PR動画の作成は大変なイメージもありますが、行政側の担当者が積極的に関わっていくことにより、より良い作品が出来上がると思います。基本的には5〜10年に一回の機会に巡り合えた訳ですから楽しみましょう!ということが皆さまに一番お伝えしたかった内容となります。
おまけ♩
撮影の合間に、観光PR動画のモデルを務めてくださったAdrianさんに似顔絵を描いて頂きました。この場をお借りして今回のご縁に感謝申し上げます。