民間企業等から構成される「びわ湖の魅力発信推進協議会」は、観光庁が実施する補助事業の一環で日本遺産びわ湖を活かした、サステナブルなインバンドツアーの造成とそれを案内できるガイドの育成を目的とした研修事業を滋賀県大津市で実施しました。
インバウンドの現状
2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類へ移行して以来、インバウンド(訪日外国人旅行)の戻りが顕著になっています。2023年10月18日に日本政府観光局(JNTO)から発表された「訪日外国客数」によると、2023年9月の訪日外国客数は、2019年同月比96.1%の218万人となり、回復率では前月を大幅に上回り、新型コロナウイルス感染拡大前の実績に迫る勢いを見せたとの報告がありました。
今後関西圏においては、2025年に大阪万博、2027年にワールドマスターズゲームズ関西の開催が予定されており、これらの大型インバウンドイベントに合わせた盛り上がりが期待されます。
びわ湖の魅力
事業実施エリアである滋賀県大津市は、京都からJRで2駅9分、大阪から40分と都市圏からのアクセスが良好です。また、関西空港から90分程度、大阪国際空港(伊丹空港)から80分程度でアクセスができ、インバウンド旅行客にとっても訪問が容易です。
びわ湖は「日本最大の湖」というだけでなく、およそ400万年もの歴史をもつ日本最古の湖であり、世界中で20ほど存在する古代湖の一つとなります。びわ湖はその長い歴史において、様々な面で人々の生活を支え、豊かな自然を育んできました。生活面では湖の周囲の山地を源流として日本一の貯水量を誇り、京阪神地域の生活用水を蓄えるという機能を果たしており、地域住民の生活に欠かせない資源となっています。また、環境面ではびわ湖にのみ生息する植物・魚類などの60を超える固有種の基盤となり、漁業の発展や豊かな生態系にも貢献しています。
びわ湖は、世界文化遺産である比叡山をはじめとする山々の豊かな自然に囲まれていることも大きな魅力です。カヤックやSUP(スタンドアップパドルボード)などのウォーターアクティビティに加え、トレッキングやスキー、キャンプやグランピングといったマウンテンアクティビティが楽しめるほか、社寺仏閣などの各所で桜や紅葉の四季を感じることができます。また、大自然や歴史的な建物におけるSNS映えするスポットも注目されています。
現状の課題
びわ湖は近隣都市にはない多くの魅力を有するにも関わらず、認知度が低いことが大きな課題となっています。びわ湖は様々なアクティビティを体験できるアドベンチャーツーリズムの聖地ですが、観光を目的に訪れるインバウンド旅行客に対して十分な情報発信が出来ておらず、このようなネイチャーアクティビティを案内できる通訳ガイドが不足しており、受入体制の整備が進んでいないという課題があります。
今後の観光のあり方
第16回観光立国推進閣僚会議において岸田首相は「インバウンド消費5兆円の達成」に向けて具体的な政策検討を指示し、政策パッケージでは以下の4本の柱を掲げました。
- 特別な体験の提供
- 大自然の魅力を活かした新たな体験の提供
- イベントをフックとした誘客の促進
- 戦略的なプロモーション、CIQ等の受入環境整備
今回の事業と関係が深い「特別な体験の提供」と「大自然の魅力を活かした新たな体験の提供」については、自然・新しい視点・感性を広げるなど、自国ではできない体験を通して、新たなアイデア、物事の考え方、真理や原理を追求することを目的としています。
加えて、ここ最近は「サステナブルツーリズム」が注目されています。これは「持続可能な観光」のことであり、現在だけではなく未来を含めた、社会、環境等への影響を十分に考慮し、旅行者や企業、受入れ側のニーズに対応した観光のことを意味します。言い方を変えると、地域の資源である「自然」や「文化」、「伝統」、「そこに暮らす人々」を活かして、外からの旅行者を受け入れ、地域経済を発展させること、同時に「自然環境」や「文化・伝統」を守っていくこと、そういった観光のことを意味します。
古来の日本人の生活は地産地消を基本とし、伝統文化を守り受け継いでいくというまさに「サステナブル」なものでした。びわ湖においても、自然環境を保全するために代々受け継がれてきたサステナブルな生活習慣を今もなお一部の地域で垣間見ることができます。
元々、観光は物見遊山が中心でしたが、時代の流れとともにその目的が爆買いに代表される「モノ消費」から体験型の「コト消費」へ遷移し、現在はサステナブルツーリズムのような旅行自体の「意味や意義」が問われる時代となってきています。
ガイドツアーの内容
今回の取組は、観光庁の「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」で採択された以下の2事業の一環として実施されました。
- 「びわ湖と水辺の環境保全を学ぶインバウンド向けガイドツアーの造成及び、ガイドスキルの向上事業」
- 「日本遺産・びわ湖でのインバウンド対応ガイド育成整備事業」
事業1.では、日本遺産であるびわ湖の環境保全活動をインバウンド向けの観光ガイドツアーとして造成し、世界的に環境問題への意識が高まる中、びわ湖の環境教育プログラムを一般のインバウンド向けに活用することを目的としています。
事業2.では、びわ湖を訪れるインバウンド向けに湖の成り立ちや歴史、文化、習慣、地政学的な要素を含めた解説ができる高度なガイド人材の育成とガイドスキルの向上を図ることを目的としています。
今回は、ガイド研修及びモニターツアーを通しての「サステナブルな旅行商品造成」と「それを案内できる通訳ガイドの育成」が大きな狙いとなります。本事業は3日間の日程で開催され、2日間は通訳ガイドを対象とした研修、残りの1日は在日外国人を招聘し、研修を受けたガイドが実際に英語で案内を行うモニターツアーとして以下の内容で実施されました。
研修1日目は、滋賀県琵琶湖環境部の担当職員を講師として招き、びわ湖での環境保全の取組について講義が実施されました。400万年前のびわ湖の成り立ちから始まり、水源や観光資源としての価値、水質改善に係るこれまでの歴史や経緯が紹介されました。午後からはカヤックで実際にびわ湖へと繰り出し、その生態系維持や水質改善に寄与しているヨシ帯の見学が実施されました。
研修2日目は、午前中に成安造形大学の加藤教授による当該エリア内の里山文化に関する講義から始まり、午後は講義で紹介された場所へサイクリングで訪れるという内容で実施されました。講義は、里山の暮らしには無駄がなく、自然の中で人々が一体となって暮らすという、特にインバウンド旅行客における富裕層や知識層を引き付ける内容となっています。また、講義の題材となった神社や棚田などを実際に訪問し、説明を受けることで一層理解が深まる研修となりました。さらに、自転車で移動することにより、車やバスでは味わえない、里山特有の空気・匂い・雰囲気を5感で楽しむことができます。
研修3日目は、研修に参加したガイドが在日外国人を実際に英語で案内し、これまでの成果が検証されました。参加者からは、「アクティビティを楽しみながら歴史文化を学べるところが良かった。ネット検索でも出てこないような地元の人しか知らない情報を知れたのが良かった。京都がオーバーツーリズムの一方で、滋賀は人が多くないのでゆっくり楽しめる。」などの声が上がりました。その一方で、「不安定なカヤックでのガイドは改善の必要がある。地元の歴史文化や慣習は興味深いが、イメージすることが難しいので視覚的に分かる資料があったほうが良い。」など、今後の改善に向けたコメントも寄せられました。
参加者のコメント
研修に参加した、大津市在住で京都市認定通訳ガイド歴6年の大西ジェニファーさんは次のようにコメントしています。
「滋賀・大津の魅力をもっと発信したいと思い今回の研修に参加しました。特に研修2日目の里山文化に係る講義では、集落全体で助け合っている生活スタイルが素晴らしく、そこで生産・消費・再生の全てが完結することが究極のSDGsではないかと感じました。高度経済成長期においても、周囲に流されず、独自の発展を遂げた里山から学ぶことは多いと思います。
今回の事業目的の一つであるツアー造成については、いかにして現地に来てもらうためのPRを行うことが課題であると思います。最初に来てもらうきっかけ作りが必要です。サイクリングツアーは他のエリアでも実施されているので、ここでしか体験できない付加価値をPRすることが重要です。今回の研修でも思いましたが、大津に来れば間違いなく楽しんで頂けるので、まずは来て頂くことが重要です。」
モニターツアーに参加した、アメリカ出身で日本在住歴18年のキャミィ・アレグザンダーさんは次のようにコメントしています。
「今回のモニターツアーは昨年の夏に初めて訪れた滋賀の魅力をもっと知りたいと思い参加しました。アクティビティと共に歴史文化が学べる内容に魅力を感じています。京都、滋賀、奈良の距離は近いですが、文化や習慣は全く異なっており、言葉も少しずつ違います。滋賀の街は大きくはありませんが自然が多く魅力的です。ツアーについてもカヤックでびわ湖に繰り出し、水質の改善に寄与しているヨシ帯の説明を受けたことが印象に残りました。また、湖上から見上げる比叡山の景色はとても素晴らしかったです。」
今後の課題
今後は本事業で得られた結果を基にして、京都や大阪からのアクセスの良さを活かし、他地域にはない、SDGを軸とした環境保全に触れる独自のサステナブルツアーの造成を目指す方針です。さらにツアーを2日3日以上にパッケージ化することによって、地域での長期滞在が促進され、宿泊や飲食につながり、観光消費額の拡大が期待できます。
今回のツアーは、400万年の歴史を有するびわ湖が育んできた環境と人々が継承してきた文化や生活の知恵などがアクティビティ体験を通して共に学べるという魅力があります。
日本政府は2025年までに訪日外国人1人あたりの消費額を20万円に拡大する目標を設定しており、インバウンド観光において量から質への転換が伺えます。ここで、今後キーワードとなるのが「旅の高付加価値化」です。高付加価値化は必ずしもサービスのラグジュアリー化を意味するわけではなく、本事業を通して検証した「お金で直接買えないモノ」にこそ新たな価値を見出す観光であると考えられます。
既存のツアー
今回の事業で実施した「サイクリングツアー」については、すでに一般向け体験コンテンツとして販売されています。
歴史や日本の原風景を感じる2つのコースが用意されており、初心者でも楽しめる内容となっています。びわ湖の風を感じながら、地元が育んできた歴史文化に触れてみてはどうでしょうか。
お問合せ先:オーパルオプテックス株式会社
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